南インドカレー探求

南インドカレーってどんなカレー?

南インドの主食は日本と同じくお米です。そのお米といっしょに、野菜をふんだんに使った何種類ものカレーを食べるのが南インドの基本的なスタイルです。時にはそこにチキンやマトン、あるいは魚、海老などのノンベジ(非菜食)カレーが加わることもあります。その味わいは、トマトやタマリンドの酸味、ココナツや煮とかした豆のコク、そしてスパイスの香りや辛さが様々なバランスで調和しています。また、日本で一般的な北インド風のカレーと比較すると、オイルやバター、クリームなどの油脂がはるかに少ないのも大きな特徴と言えるでしょう。 野菜を中心とする素材の味わいが素直に引き出された南インドカレーは、どこか和食にも通じる軽やかさや洗練が感じられるのもおもしろいところです。


南インドのカレー定食「ミールス」

平たい金属のお皿(ターリー)の中央には主食となるごはん、その周りにはさまざまなカレーやおかず、これが南インドの典型的な定食スタイルです。お皿がわりに大きなバナナの葉が使われることも少なくありません。
たくさんのカレーやおかずは、それぞれの味を楽しむというよりはむしろ一度にいろいろな種類をお皿の上でご飯と混ぜて自分好みの味を作りながら食べます。現地の食堂ではごはんやカレーは基本食べ放題であることが多く、誰もがついつい食べ過ぎてしまうのですが、不思議とおなかいっぱいでも胃がもたれないのは基本的に南インドカレーがヘルシーな食べ物であるということの一つの証拠と言えるのかもしれません。


ミールスの主役サンバル、そしてラッサム

サンバルは南インドの味噌汁、なんて言われる事があります。まさに言い得て妙だと思います。ツールダルという豆の挽き割りと野菜をじっくり煮込んだものとサンバルマサラと言われる独特のブレンドスパイスや酸味のあるタマリンドで作られるサンバルは、菜食料理であるにもかかわらずしっかりとしたコクや食べ応えもあってまさにミールスの主役であり、また南インドを象徴する料理の一つと言えるでしょう。
ラッサムはサンバルよりさらっとした濃度でよりスパイシー、そしてより酸味も効いたスープです。こちらも南インド料理を語る上では欠かせない料理と言えます。胡椒と唐辛子の辛味がこれでもかというほど効いてマスタードシードやカレーリーフなど南インドならではのスパイスが香る独特の味わいは、慣れるとヤミツキになる中毒性があります。


南インドの肉カレー

菜食カレーが中心の南インドではありますが厳格な菜食主義者以外の人々にとっては肉のカレーももちろん心躍る大切な「ご馳走」で、やはりバラエティ豊かな傑作料理がたくさん存在します。肉カレーに関しては本場とも言える北インドやムスリム諸国の影響を感じさせる調理法も少なくないのですが、全般的には乳製品やナッツをあまり使わずシンプルな調理法で素材の風味を素直に生かすという南インドカレーならではの特徴はここでも生きています。
素材がシンプルである分、調理の際は香味野菜やスパイスそして肉汁そのものから自然にとろみが出るまで煮詰めてしっかりとしたコクが凝縮されているのも特徴で、一般的にさらっとしていると言われる南インドカレーの特徴はこと肉料理に関してはあまりあてはまらないということも言えるかもしれません。ただその場合でも油脂の使用量は一般的なカレーと比較すると少なく、コクがあるのに軽やかで鮮烈な味わいにはやはり南インドならではのものがあります。


南インドの魚カレー

海に面している地域の多い南インドでは、魚介類もまた重要な食材です。北インドやムスリム圏の影響も少なくない肉料理に比較すると魚介料理はもっと南インドの土着的な調理法にもとづくものがほとんどであるのは興味深い点です。つまりシンプルでストレートなスパイス遣いやタマリンドなどの酸味、そしてココナツミルクの多用といった事も含めて菜食カレーと共通するローカルな特徴をより多く持っているのが南インドの魚カレーです。魚はたいていの場合、骨付きのものを丸のままあるいはぶつ切りで使用します。そのため料理によってはどこか日本の煮魚とも共通するようなある種の懐かしさを感じることもあるかもしれません。また魚と並んで海老はたいへん好まれている食材です。ココナツミルクをたっぷりと使用したケララ風の海老カレーは南インドを代表するカレーのひとつと言えるでしょう。


食卓の名脇役たちⅠ

ふりかけ = ポディ 漬け物 = ウールガイ
南インドにはふりかけや漬物もある、と聞くともしかすると驚かれる方もいるかもしれません。ふりかけはポディとよばれ豆を炒って粉にしたものに唐辛子と塩で味付けされたものが基本で、これにその他のスパイスやハーブなどを加えたバリエーションもあり、まさにふりかけのようにご飯にかけて食べられます。きなこにも似ていますが、きなこよりカリカリとした香ばしい食感が特徴でこれだけでいくらでもご飯が進みます。
漬物はウールガイ、あるいは英語なまりでピックルなどともよばれ、野菜や熟す前の果物を塩とオイル、唐辛子などで漬け込みます。素材自体に酸味の強いものを使う事も多いためその味わいは日本の梅干にも近いものがあります。梅干同様思わず顔をしかめるほど酸っぱくしょっぱい事も多くやはりこれも思わずご飯が進んでしまいます。


食卓の名脇役たちⅡ

チャトニー
南インドの食卓で時に主役以上の存在感をもつのがチャトニーです。チャトニーは様々な素材をスパイスとともにすりつぶし味付けしたもので言うなればディップに近い形状のものですが、パンやスナックにつけるだけではなくカレーとともにご飯に混ぜても食べられます。
チャトニーにはココナツを主体にしたものやそれにハーブが加わったもの、野菜や豆を使ったものなど様々なバリエーションがあり、おいしいチャトニーがいろいろ並ぶと食事の時間がいっそう楽しく華やかなものになります。まさに主婦の腕の見せ所、といったところでしょうか。日本の食卓でもメインのおかず以外に例えば海苔の佃煮やわさび漬けやなめたけなんかがちまちま並んでいると一気にテンションが上がるものですがチャトニーとはまさにそれに匹敵するような存在と言えるかもしれません。


食卓の名脇役たちⅢ

ヨーグルト
南インドの食事、特にミールスにヨーグルトは欠かせない存在と言っても過言ではありません。この場合のヨーグルトは無糖でデザートではありません。実はこのヨーグルトもご飯にかけて食べられます。ご飯にヨーグルトというとぎょっとする人も多いかもしれませんが、いろいろなカレーをご飯に混ぜる際ヨーグルトをちょっと足すだけでその味わいはぐんと広がるのです。特に食事の最後には残ったごはんにたっぷりヨーグルトをかけ辛くて酸っぱい漬物と食べて締めるのも定番です。日本でもひととおりご馳走を食べた最後に番茶をかけたお茶漬けとお漬物でさっぱり締めるのと妙に通じる所があるのも面白いところです。


南インドのお米

インドのお米はぱらっとした長粒種のお米が中心です。中でもバスマティと言われる種類のお米は香り、味とも最高といわれ特に珍重されています。アジア有数の米どころである南インドでは色・形・大きさ様々なお米が作られており、一見日本米にも似た短粒種のお米も種類豊富です。高級なバスマティはなかなか庶民の手の届くものではなく、一般家庭や庶民的な食堂ではそういった短粒種のお米がよく食べられています。
ただし短粒種とは言っても日本の米とは品種も精米法も大きく異なるため味や食感は全く別物です。甘味や粘り気はほとんどなくプニプニとした食感は強いて言えば押し麦をゆでたものにも似た味わいで、長粒種のお米同様カレーの汁気を吸わずさらっと食べらるという特徴があります。